本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
支配人が去った後に私達はクロスをかけ、椅子に白いカバーを被せる。

三百脚を超える椅子のカバーかけには相当な労力を使い、足腰に疲労を感じた。

「はぁっ、疲れるんだよね、この作業は!ちょっと一息つこうね」

カバーのかけてない予備の椅子に座り、休憩タイム。

星野さんが自動販売機から買って来てくれた、ストロー付きの紙パックのカフェオレを三人で飲みながら、疲労を癒す。

「元々、俺達は本店に居たんだけどね、真壁が支配人になるって聞いて、興味深くて着いて来ちゃったんだ。真壁の仕事ぶりは上役にも気に入られて、新規オープンのホテルの支配人を任せられる程だった…」

支配人が居ないからか、ここぞとばかりに話を弾ませる星野さんは楽しげな表情だった。

「さっき言ってた新人時代の話、聞きたいでしょ?」と言い、ニッコリと微笑むと返事を聞く前に話し出していた。

お互いに大卒の新入社員で、最初の一年は研修期間だから各部署を回ったらしい。

一年後の配属先は支配人はフロント、星野さんはレストランサービスに決定された。

支配人のルックスは女性の目線を釘付けにし、特におば様達のファンが多く、顧客を獲得した上に仕事熱心の真面目君だから、上役にも気に入られて、若くして支配人を任されたらしい。

「ありえない位のスピード出世だな、とは思うけど…上役も見る目あるよなって思ったよ」と話の終わりに星野さんは付け加えた。

星野さんの話に妙に納得がいく部分があった。

確かに支配人のルックスは女性の目を惹き、仕事熱心なところにも共感出来る。
顧客を獲得する為の入口が、自分のルックスだとは支配人は自覚してないだろうけれど…。

「アイツさ、最初は緊張してお客様にロクに挨拶出来なくて、フロントマネージャーに鏡の前で『いらっしゃいませ』の練習して来い!って言われて必死で練習してた。そしたら、いつの間にか…女性を惑わす流し目と微笑みを習得してたんだよね!」

星野さんが面白おかしく話すので、私達は緊張感も忘れて吹き出してしまう。

支配人とは違い、気さくに話せる方で休憩後も楽しく仕事が出来た。
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