本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
間違っても星野さんはそんなタイプの男性には見えないが、優月ちゃんにとっては同じカテゴリーに入ってしまうのかもしれない。

何て声をかけたら良いのか戸惑っていると、ガタンッと椅子を引く音が隣側から聞こえた。

誰だろう?と振り返ると支配人で、気が付いた時には頬杖をつきながら座っていた。

「そんな男はロクでもない奴だから、付き合わなくて正解だったな。性格が歪んでるんだから、顔も大した事はなかったんだろう。中里の目の錯覚だったと思うぞ?」

キッパリと言い切る支配人は不敵な笑みを浮かべる。

容姿端麗、聡明な貴方からすれば、大抵の男性は見劣るでしょう。その事を本人は分かっているのか、いないのかは謎だが、自信に満ち溢れているのは確か。

優月ちゃんは支配人の言葉で救われたのか、「はい、錯覚だったと思う事にします」と答えてにこやかに微笑む。

毒舌も役立つ時があるんだと関心していると、隣に座り頬杖をついている支配人の目線が気になった。明らかに私の事を見ているような視線に身体が固まる。

「ごちそうさまでした」

後から食べ始まったのに先に終わった優月ちゃんが食器を片付けようと立ち上がり、席を外すと見計らうように耳元で囁かれた。

「仕事が終わったら、一人で支配人室に来い」

誰にも気付かれない為に言い終えた後は自然の流れのように、この場を去る支配人。

私の顔が見える位置には誰も座ってなくて良かった。

不意打ちをくらい、私の顔が熱を帯びる。職場での接近行為並びにからかい行為は止めて欲しい。

いちいち反応してしまい、周囲も気にしていたら心臓が持たないもの。

「支配人は星野さんに用事があったみたいだけどすれ違いだったみたい…。いつの間にか来たからビックリしたぁ」

戻って来た優月ちゃんは、従業員食堂の出口で支配人とすれ違った時にそう言われたらしい。

そっか、星野さんに用事があったから来ただけで私はたまたま居たからついでだったのね。

「ブッフェ会場にまた顔出すって言ってたよ」

「そうなんだ?」

もしかしたら片付けのヘルプに来てくれるのかもしれない。

そう言えば今日も配膳会の方々が三人来ると星野さんが言っていたけれど、こないだの大学生には会いたくないな。支配人が注意を促してくれたけれど、根掘り葉掘り聞かれそうで怖いから…。
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