強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
顔は笑顔で、心は泣いて──。

でもずっと一緒に暮らすわけじゃないんだし、今ここで母を困らせる必要はないと明るく手を振った。
 
車に荷持を載せると、八雲さんはおもむろに車を走らせる。後ろを振り返れば、生まれてからずっと暮らした家がだんだん小さくなっていく。

最近は色々あったけれど、数え切れないほどの思い出がある我が家を出るのは少し寂しい。

……ってなんで私、センチメンタルになってるの? これはしばらくの間、父たちを騙すためのこと。いずれ戻ってくるのだから、何も寂しいなんて思うことないじゃない。
 
結婚もしないのにマリッジブルーになりかけるなんて、私はどうしたというのだろう。

「芳奈、どうした? やっぱり気疲れしたか?」
 
赤信号で車を止めた八雲さんが、私の方に顔を向ける。

「気疲れ? そんな言葉じゃ収まりきらないくらい疲れてますよ。なんでこんな事になったのか、八雲さんわかってます?」
 
今更八雲さんを責め立てても仕方ないとわかっているのに、一度暴走しだした口は簡単に止められない。


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