たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~
「最後にこれを飲んだ率直な感想を聞かせてくれ」

いつの間にか縦長のグラスにやや濃い色のビールが注がれていた。

細かい泡がいくつも表面に浮いてきている。

手に取ると、冷たくない。

まさに常温?

一口飲むと、後味爽やかで懐かしい香りが鼻を抜けていった。

日本で飲む味と似ているけれど、もっと角が取れたような柔らかさ。

冷えてないことで一層その深みを感じるような味だった。

「日本で飲むビールに似ているけれど、これは常温で飲む方が味わい深いような気がします」

彼は腕を組み、口元を緩めて頷く。

「これは日本人がベルギーで作ったクラフトビールだ」

「日本の方が現地で作られてるんですか?」

「ああ、そうだ。もともと北海道で地ビールを作っていたんだが、多種多様なベルギービールに魅せられてね。現地に渡り、俺もバックアップして数年前から試行錯誤して作っている。ようやく本人も納得できる味になって、昨年からこのビアカフェに卸させてもらっているんだ」

わざわざ、現地にまで来てクラフトビールを作るなんて。

ものすごい拘りの職人さんだわ。

このビールの深い味わいは、きっとその作り手さんの思いがいっぱい詰まっているんだろう。

オーナーが私に笑顔で何か言ったので、彼がすぐに訳してくれた。

「オーナーが言うには、『日本人が作るビールも年配客には人気があるけれど、一番人気があるのがこのビールだ。ベルギーに来てまで作る心意気そのものの味だ』と賞賛しているよ」

「すごいですね。現地でも人気が出るほどのビールが作れるなんて。どんな人が作っているのか気になります」

< 61 / 226 >

この作品をシェア

pagetop