たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~
「ふん」

彼は私の言葉に意味深に口元を緩めると、グラスに顔を近づけゆっくりと味わうようにブルーのグラスを傾ける。

そして、半分ほど飲み終えると、ようやく私の方に視線を向け言った。

「スパイスビールだ」

「へー!スパイスが入ってるビールなんて初めてです」

私はもう一度グラスに顔を近づけ、そのツンとくる香りを感じる。これは大人のビールだ。

「べルギー産ビールではよくあるスパイスの入ったビールで、これはコリアンダーやクミンなど数種類のスパイスが含まれている」

「そうなんですね。刺激があっておいしいです」

私たちが話している横で、眼鏡のオーナーが別の瓶を開けグラスに注ぎ始めた。

そして、私にそのビールの入ったグラスを手渡した。

透明の丸い曲線を描いたグラスに入ったそのビールは淡いピンク色だ。

「わ、ピンク?これもまさかビールなんですか?」

思わずそのピュアなピンク色を目の前に持ってきて透かして見てしまう。

「そうだ。何味かわかるか?」

彼は試すような視線を私に向けた後、オーナーと顔を見合わせて笑った。

顔を近づけるとほんのり甘い香りがする。

ピンクのイメージは桜。

桜味なんてベルギーではやるかしら?

そっと口を付けると、甘さの中に酸味を感じる。

まさに女性好みのあっさりとしたまるでジュースのような味わいだった。

桜じゃないとすれば……。

「チェリー味ですか?」

社長は僅かに目を見開き、オーナーと目を合わせる。

「なかなか勘が鋭いな」

へー、チェリー味か。

おいしい。いくらでも飲んでしまいそうなその味をもう一度口に含んだ。

これならビールが苦手な人でも飲めそう。
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