たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~
電車を乗り継ぎ、都心より二駅手前の駅で降りる。

駅から大通り沿いに行った先見えてくる五階建ての白いビルが【GO!GO!出版社】の自社ビルだ。

エレベーターで四階まで向かい、廊下を進んだ向こうに広がるフロアに私の職場、雑誌編集部女性誌編集チームが机を並べている。

「おはようございます!」

フロアに入るとすぐ正面に座っている我らが編集長、山根 桐子(やまね とうこ)女史に挨拶をする。

「おはよう」

山根さんは読んでいた新聞から視線を上げると、私に微笑む。

元々新聞記者だった山根さんは、私が入社する3年前にこの出版社に引き抜かれて入ってきたらしい。

経済事情に詳しく、聡明で、指示も的確。それこそ男性とも肩を並べて当然のように仕事をしていたけれど、お高く留まっていることはなく誰に対しても公平で優しかった。

編集の基本を教えてくれた、私が最も尊敬する編集長。

黒縁の眼鏡が、全体的に小柄な彼女にインパクトを与えていた。

肩までの髪は後ろに束ね、今日はシルク地の白いブラウスにタイトなグレーチェックのスカート。普段から品のいい知的な印象の服を見に着けていることが多い。

四十七歳で独身。いつかの飲み会で、病弱な母の世話をしていたら婚期を逃したわと言って私に笑って話してくれた。

でも、こんな素敵な山根さんにはいつかきっといい男性が現れると信じている。
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