俺様社長と<期間限定>婚前同居~極上御曹司から溺愛を頂戴しました~
 振り返ると、貴士さんはずっと同じ姿勢で私を見つめつづけていた。

「すみません。退屈ですよね」

 慌てて謝ると、彼は「いや」と首を横に振り微笑む。

「筆を持つ綾花が綺麗で、見とれてた」

 頬が熱くなっていくのを自覚しながら私は眉をよせた。

 こういうセリフをさらりと言えるのは問題だと思う。
 きっとこの人はいつもこんな調子で、周りの女性の心を乱してばかりいるんだろう。

「もしよかったら、なにか書きましょうか?」

 思い付きで提案すると、彼の表情が明るくなった。
 その嬉しそうな様子に、胸がきゅんと飛び跳ねる。

「なんでもいいのか?」
「はい。和歌でも漢詩でも、英文とかも書けますよ」
「じゃあ、俺の名前を」

 そう言われ、言葉につまった。
 彼の名前を書く。ただそれだけなのに、頬が熱くなる。

 彼に片想いをしていた学生の頃。私は部屋でひとり、彼の名前を書いていた。
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