俺様社長と<期間限定>婚前同居~極上御曹司から溺愛を頂戴しました~

 ゆったりとした静かな呼吸を意識しながら、硯の上で墨を動かした。

 墨を磨り終え、筆を持つ。
 背筋を伸ばし練習用の料紙と向き合い、古典を手本にしながら臨書をする。

 その間、貴士さんは物音ひとつたてずに、ずっと私を見ていた。

 私の書の練習はとても地味だ。
 大筆を振るう大書揮毫のようなダイナミックな動きもないし、ぱっと目を引くようなアート書道でもない。

 ただ黙々と、過去の有名書家が残した揮毫を手本に料紙の上に文字を写していく。

 白の地に漆黒の墨を落とす瞬間、厳かな空気が部屋中に満ちていく気がする。
 墨の濃淡、筆の掠れ、あえて残された余白。
 すべての無駄をそぎ落とした白と黒の世界に没入していく感覚がたまらなく好きだ。

 しばらく臨書を続けはっとした。
 集中するあまり、自分の世界に入ってしまていった。

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