俺様社長と<期間限定>婚前同居~極上御曹司から溺愛を頂戴しました~
 きっとランニングの最中に顔見知りになった農家さんだろう。

 そういえば、手を繋がれたままだ。
 私がさりげなく手を引っ込めようとすると、貴士さんは反対にぎゅっと力を込めた。

 人前なのにしっかりと手を繋がれ、頬が熱くなる。

「綾花先生とデート?」

 私たちの手元を見て、おばちゃんがにこにこと笑いながらたずねてきた。

「いえ、あの」

 戸惑う私の横で、貴士さんはおだやかに微笑み「そうです」とうなずく。

「あらー、美男美女でうらやましいわ」
「手を繋いでデートなんて、いいわねぇ」

 声を聞きつけたご近所さんが、わらわらと集まり口々にそう言う。

「ほんと、素敵な新婚さんねぇ」

 小柄のおばあちゃんに、笑顔で言われた。

 結婚していないから、私たちは新婚じゃない。
 それどころか、まだ結婚すると決まったわけでもない。

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