エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
温もりに全身を包み込まれ、身体を支配していた不安感が和らいでいった。

私の身体を受け止めてくれる力強い腕。

けれど、彼の口から語られたのは無力さへの葛藤だった。

「医師は、失われていく命をこの世に繋ぎ止めることができる。だが、そこから先、闘うのは患者本人だ。俺たちは魔法使いではない。完全に回復させることなんてできないし、ほとんどの場合は、圧倒的に無力だ」

これだけ命を救ってきた彼が、無力だなんて。

それは命を取りこぼしたことがあるからこそ言えるセリフだろうか。

難しい心臓の手術において、成功率百パーセントの医師なんていないだろう。

彼だって、少なからず、助けられなかった命があるはずで。

「今の俺が彩葉にできることは、これくらいしかないんだ」

そう言って、私の身体をより強く抱きしめる。

これは、医師としてなのか、私の婚約者としてなのか。

――もうすぐお前の人生は、お前ひとりのものじゃなくなるんだぞ?――

こうして、透佳くんと結婚への道筋を歩み始めている時点で、私の人生は彼のものでもあるのだ。
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