エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
「ただいま~……」

家に誰もいないことはわかっているけれど、とりあえず口に出してしまう。

実家では大体母の「おかえり~」という返事が聞こえるのだけれど。

もの悲しい静けさを放つリビングで。ソファに腰かけ、もらった名刺をまじまじと眺めた。

いくら情報が欲しいからといって、男性とふたりで食事をするなんていかがなものか。

沢渡先生とご飯を食べに行きますなんて言ったら、透佳くんは絶対に嫌な顔をするだろう。

なにしろ、診察室ですらふたりきりになるのを嫌がるくらいだもの。

でも。私の知らない透佳くんを沢渡先生は知っている。

美沙さんとの婚約がなぜ破談になってしまったのか、どうして代わりに私と婚約をしたのか、気にならないわけがない。

「だからって……彼に心配をかけるようなことは……」

好奇心に歯止めをかけて、もらった名刺を半分に破き、自室のゴミ箱に捨てた。

これでいい。これでいいんだ。

言い聞かせるように心の中で繰り返す。
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