エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
「あ、でも、そろそろ本当に帰ろうと思っていて……」

『あらどうして? 喧嘩でもしたの?』

……喧嘩ではないけれど、わけあって破局の危機。

口ごもると、正解だと思ったのか、母は喧嘩前提で勝手に話しを進めてしまった。

『喧嘩くらいするわよ。赤の他人が一緒に生活をするんだもの。お父さんとお母さんだって喧嘩ばっかりだったわよ』

「え? そうだったっけ?」

両親が喧嘩しているのを見た覚えはない。私に隠れて喧嘩していたのだろうか。

『特にうちの場合は、会社が倒産しかけたじゃない。経営に関しても揉めたし、お金の使い方や、彩葉の教育方針だってそう。奨学金を使って大学に入れたかったお父さんと、本人の意思を尊重したいお母さんで、揉めに揉めたわ』

「そうだったんだ……」

当時はとにかくお金がなかったから、いち早く働き手になって、父と母に楽をさせてあげたかったけれど。

父は、そんな私の気持ちには気づかず『教育教育』と勉強を押しつけてきたから、ずいぶんとすれ違ったものだ。
< 221 / 259 >

この作品をシェア

pagetop