エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
帰り道。運転席にはお酒を飲まなかった母が座った。

私は後部座席から身を乗り出して、一番気になっていることを尋ねる。

「この振り袖、お母さんが買ったって言ってたよね?」

母は、はて、そんなこと言ったかしら? と首を捻る。記憶の覚束ない母に、助手席の父が助け舟を出した。

「透佳くんに口止めされていただろう。成人式と卒業式が終わるまでは、プレゼントだと言わないでほしいって」

言われて、ああ! と母はわざとらしく首を上下した。

「彩葉は意地っ張りだから、自分からの贈り物だと知ったら着ないんじゃないかって、透佳くん、言っていたわねぇ。そうそう、それでしばらくの間、私が買ったことにしたのよ」

あんぐりと口を開ける。確かに、彼の贈り物だと言われていたら、成人式にも卒業式にも着ていかなかったかもしれない。当時の透佳くんのイメージはトラウマ級だったから。

「で、ひと通り振り袖を使い終わったら、話してくれって言われてたんだよな?」

「そうそう。それで話すの忘れちゃったのね」

あっけらかんと母が言う。
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