みずあめびより
「まだ起きてるか?」

30分程して鈴太郎が声をかける。

「はい。」

「珍しいな。寝付きのよさ世界記録保持者なのに。」

「眠かったけどなんか目が覚めちゃって。」

──お姫さま抱っこ・・・なんてされちゃったから・・・。それにこんな、手を伸ばしたら触れられるくらい近くで寝るなんて・・・。前に泊めてもらった時よりもずっと近い。

衣緒は布団の中の手をぎゅっと握りしめた。

「明日の朝、下のカフェ行かないか?下に住んでいる彼女、安西さん、もし来てたら紹介するよ。」

「はい。・・・あの。」

衣緒は鈴太郎の方を見て何かを言おうとして口ごもった。

「ん?」

「えーと・・・。」

「何だよ?」

促すと彼女は思い切った表情で口を開いた。

「うまく言えないのですが・・・葉吉さんも、私に甘えてくださいね。」

「え?」

「愚痴言ったり、八つ当たりしたり、泣いたり・・・。無理しないでくださいね。大したことは出来ないですけど、私、いつもそばにいますから。頼ってくださいね。」

「衣緒・・・。」

「・・・。」

驚いた目で彼女を見つめると、意志のこもった強い眼差しで見つめ返された。

「わかった。ありがとう。」

そう言って微笑むと、はにかんだ微笑みが返ってきた。

「あ、そう言えば入浴剤何色になったんですか?」

「ああ、白くなった。」

「意外。青、緑、と来たからなんとなく黄色かと思いました。香りはどうなりましたか?」

「知りたい?」

「?気になります。」

鈴太郎は起き上がり、ベッドの前で膝立ちになると、戸惑う彼女の方に体を倒して抱きしめた。

「・・・どう?香りする?」

「・・・えっ、えっと、さっきも、こうしてもわからなかったし・・・。」

「花の香りになった。面白い入浴剤だよな。」

「は、はい・・・。」

二人とも体がどんどん熱くなるのを自覚していた。

「・・・俺、リビングのキャンドル消してくるから。」

鈴太郎は寝室を出てリビングに行くと、ふーっと息を吐く。

───危なかった。あのままだったら先に進んでしまいそうで・・・。衣緒が寝るまで待ってから戻ろう・・・。


ゆっくりとハーブティーを飲んで気持ちを落ち着けてからキャンドルを消し、寝室に戻ると衣緒は寝息を立てていた。鈴太郎はその髪を優しく撫でて唇にそっとキスを落とした。
< 149 / 253 >

この作品をシェア

pagetop