みずあめびより
「あの・・・9時なのでそろそろ起きませんか?」

───いつまでもこうしていたいけど。

衣緒が声をかけると鈴太郎が目を開けた。

「ん・・・そうだな。あれ?腕・・・。」

衣緒を抱き締めていたはずなのに彼女は腕の中にいなかった。

「腕痛くなっちゃうかと思って、脱出しました。」

「そんなのいいのに。寝てないのか?」

「なんか寝ちゃうのもったいなくて。幸せ噛みしめてたっていうか・・・あ、いえ、その・・・。」

恥ずかしくなり布団を目の下まで引っ張った。

「はは、こんなの、これからいくらでも・・・。あ!」

「どうしました?」

「今日ごみの日だった・・・。」



鈴太郎はごみを持って急いでマンション1階の収集場所まで走り、ギリギリ収集に間に合った。軽く身支度をしてきた衣緒と合流しベーカリーカフェに向かう。

「新しいパンがたくさん増えてますね。美味しそう。」

「好きなの選べよ。」

パンを選んでレジに行くと老婦人が迎えてくれた。

「またいらっしゃると思ってましたよ。」

衣緒を見て嬉しそうに言う。二人ともどう反応していいのかわからず照れ笑いしながら目を見合わせる。

「おーい、リンタロウ!」

下に住む彼女、安西が席から声をかけてきた。朝から元気いっぱいだ。

「ああ、おはよう。」

鈴太郎が挨拶を返し、衣緒が会釈する。

会計を済ませてサラダとドリンクをとると彼女の隣の2人がけの席に向かう。

「はじめまして。彩木衣緒と申します。」

「はじめまして。うちは、安西さよか、です。2階に住んでるの。よろしくーって言ってももう日本出ちゃうんだけどね。あなたがリンタロウの好きで好きで仕方がない女性でしょ?」

「なっ!!何言うんだよ!?!?」

鈴太郎はひどく慌てていた。衣緒はこんな彼を見るのは初めてで驚く。

「だって本当じゃん。ここで朝っぱらからどんなとこが好きか熱~く語ってたし。なんだっけ?会社の飲み会で、大皿に乗った唐揚げの端っこの殻だけの部分と下に敷かれたサニーレタス食べてるの見てキュンとしたとか言ってたよね。」

「・・・!」

───葉吉さん、そんなところまで見ててくれたんだ・・・。

「あと何だっけ?席にいる時に・・・。」

「い、言うな!!」

鈴太郎は真っ赤になり慌てる。

「ひゅ~ひゅ~!末永くお幸せに。あ、そうだ。」
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