みずあめびより
食事を済ませお風呂から出て、リビングのソファの前に座り鈴太郎に髪を乾かしてもらう。衣緒は彼の両足に挟まれるように座っていた。

「髪、伸びたな。」

衣緒の髪はすっかりロングヘアになっていた。

「長いのと短いのどっちが好きですか?」

「え?」

ドライヤーの音で聞こえなかったようなので、声のボリュームを上げる。

「髪、長いのと短いの、どっちが好きですか?」

「どっちも好きだけど、どっちかと言うと長い方が好きかも。でも長いと乾かすの大変だな。」

「慣れたらそうでもないし、寝癖ついたら結んじゃえばいいからいいこともありますよ。」

「そっか。あ、白髪。」

「見られちゃった・・・最近目立つところに生えるんですよ。分け目変えようかな。」

衣緒は、はぁ、と溜め息をついて髪を撫でた。

「・・・お互いこれから白髪どんどん増えてくな。」

「そうですよね・・・。」

「もっと白髪増えても、髪薄くなっても、シワが増えても、一緒にいたいな・・・。」

鈴太郎がドライヤーの音に負けないように大きめの声で言ったその言葉は衣緒の胸に染み渡った。

「・・・はい。」

「・・・というか、衣緒はいつになったら敬語辞めたり、俺のこと名前で呼んだりしてくれるんだろ?まさか、お互い白髪だらけてシワシワになってもまだ・・・!?いや、有り得る・・・!! 元彼と違って俺上司だし・・・いや、でもその頃には退職して・・・いや、それでも・・・。」

衣緒は本気で心配して焦る鈴太郎を可愛いな、と思った。寝ていない上に温風が気持ち良く頭がぼーっとして自然と言葉が出る。

「・・・好きだよ、リンくん。」

「!!!!!今、何て!?!?」

急いでドライヤーを止め、彼女の顔を覗き込むと気持ち良さそうに眠っていた。

「このタイミングで座ったまま!?さすがに勘弁してくれよ・・・頼むからもう一回・・・なぁ、衣緒~っ。」

鈴太郎の声がむなしく響いた。
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