みずあめびより
「・・・ちくしょ・・・。」

新貝のそのつぶやきと同時に唇が重なった。

ギャラリーが息を呑み、他の客の話し声も聞こえなくなる。

心を決めて目を閉じたものの、強い視線を感じてただただ恥ずかしくて衣緒は体を固くした。

柔らかく触れた唇や肩にそっと置かれた手から伝わる鈴太郎の温もりがその強張りを優しく溶かしていく。

皆の前でするキスは、お互いを心から愛していること、これからも二人で喜びも悲しみも分かち合い、支えあって歩んでいくことを宣言するようで、恥ずかしいのに誇らしいような気持ちになる。

心が穏やかになっていき、
赤くなっているであろう顔の熱ささえ心地良く感じた。


たっぷりとした時間の後唇が離れると、大きな拍手が巻き起こる。

「長いよおぉ!」

真中が突っ込むが、見つめ合う二人にはその声は届かず、鈴太郎は再び衣緒を抱きしめるとその耳元でささやいた。

「衣緒、好きだ。これからもずっと。一緒にもっと幸せになろう。」

「ありがとう、リンくん・・・大好き(ヽヽヽ)。」

涙声で言うと涙が頬を伝う。

「だ、だ大好きって言うなよ!こんなところで。」

「わざと、だよ。」

真っ赤になり慌てて体を離した鈴太郎に衣緒は泣き笑いしながら言った。そんな彼女に鈴太郎は攻撃的な眼差しを向ける。

「・・・そういうこと言うともう一回するけどいいんだな?」

「えっ!?それはちょっと・・・。」

「うおおい!無視すんなよぉ!」

真中がドタドタと駆け寄ってくる。

「あ・・・まだまだ未熟な二人ですがこれからもどうぞよろしくお願い致します。」

鈴太郎が言い二人で礼をすると、再び温かい拍手が送られる。

輝く夜空の下であんず色の照明に照らされながら、二人は今日のこの瞬間も水飴に包まれてキラキラと輝く思い出になるに違いないと思った。



───みずあめびより 完───
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