みずあめびより
『葉吉さん、先日は大変お世話になり、本当にありがとうございました。持ってきた傘が折れ、買った傘も折れ、心も折れそうでした。そんな中、お家に連れて行って頂いて、優しい、温かい時間を過ごさせて頂きました。ミニトマトは私の家のベランダで育てたものです。(カフェの野菜には遠く及びませんが)タッパーは新しいものなのでよろしければお使いください。ハーバリウムはもしよろしければ葉吉さんの素敵なお部屋に仲間入りさせて頂ければ、と作ったものです。心ばかりですが、お気に召して頂ければ幸いです。 彩木衣緒』

手紙ということで、衣緒は自分の気持ちを素直に書くことが出来た。

ただ、『優しい、温かい時間』のところは元々は『優しくて温かい幸せな(ヽヽヽ)時間』と書いていたものの、感謝以上の気持ちまで晒してしまうようで、修正した。

時間をかけて言葉を紡ぎ、何度か書き直したその手紙を思いきって同封したものの、恥ずかしくて少し後悔する気持ちがあるのも正直なところだった。

タッパーを見ると、金曜日の夜彼女に麦茶を出したコップに描かれていたのと似たタッチのグリーンが側面に描かれていた。

───このタッパーわざわざ探してきてくれたのだろうか。俺がトマト好きで、カフェのサラダバーでたくさんプチトマトをとっていたことを見ていてくれたのだろうか。ハーバリウムもこんな短時間で作ってくれるなんて・・・。

この週末、お礼の為とはいえ、自分の家から帰った後も彼女が自分のことを考えてくれていたということがわかり、胸が熱くなった。

見上げるとあの庭で二人で笑った一昨日の空のように雲ひとつない青空が広がっていた。
< 45 / 253 >

この作品をシェア

pagetop