みずあめびより
迷路を出て公園出口から駅まで向かう間、二人は再び無言になりそれぞれ想いを巡らせていた。

「・・・。」

───もしあの時、あの子達が来なかったら、チ、チュー、してた?いや、元々寸止めする予定だったのかな?「試してみた」だけ?葉吉さんは今何を思ってるんだろう・・・。

「・・・。」

───『チューしてる!』って、まだしてねえよ・・・。どうせならしてから入ってきてくれれば・・・。いや、でもあそこでしてたら、酒の勢いと思われてしまったかもしれないから結果的によかったのか?なんか新貝に便乗してるみたいだし。というか彼女は俺のこと避けなかったよな・・・。

駅に着いて改札を通ると、鈴太郎が口を開いた。

「ありがとう。見つけてくれて。」

「いえ。」

「・・・お礼に今度飯行かない?」

「大したことしてませんから・・・。」

───行きたい、けど・・・。本当、ただちょっと戻って探しただけだし。

「・・・俺とで嫌じゃなければ。」

「嫌なんかじゃないです!」

───うっ、思ったより大きい声出ちゃった。

それを聞いて彼は微笑んだ。

「じゃ、行こう。フラワーデザイナーと花屋がコラボしてやってるカフェがあるんだ。」

「あ、そこ行ってみたかった・・・です。」

「ならよかった。昼休みに行くのは遠いから、夜にしよう。月曜と火曜はバタバタしてるから、水曜はどう?」

「大丈夫です。」

「じゃ、決定で。」

「はい。」

───決定、しちゃった・・・。

衣緒は胸の奥が大きくざわめくのを感じた。

「彩木さんの電車、もう来るよ。」

鈴太郎は電光掲示板を見上げて言う。

───離れがたいけど。

「あ、じゃ、お疲れ様でした。」

───なんか、寂しい・・・。

「お疲れ。本当、ありがとう。」

会釈をしてホームに向かう彼女の後ろ姿を見送ると彼もホームに向かった。



鈴太郎は帰宅の途でも迷路内の塔でのあの場面を何度も思い返してしまっていた。

マンションに着き、エントランスでポストから郵便物を出していると、女性に声をかけられた。

「ねえ。」

「!?!?!?」
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