バイオレット・ダークルーラー
【黒にまみれた街の中心で
闇空に向かいそびえたつ摩天楼の頂には
すみれ色の瞳をした、綺麗な獣が棲むという。
――…その獣こそ、麗蘭街の支配者である】
「バカげたあの話、思い出した?」
「…し、…づき、さ…っ」
「全部、作り話だったら良かったのにね」
わたしは
何を見ていて
何を、聞いているのだろう
「…ここ、は、」
「麗蘭街で一番高さのある建物の最上階。…あの話の通り言うなら、“摩天楼”」
「…すみれ色の目をした…、綺麗な…っ」
「“獣が棲むという”、でしょ?」
――…男にぶつかった時。彼の男たちへの力を見せつけられた時。
それらとは何もかもが違う、全身の細胞までもカタカタと震えだすような感覚。
「…もう少し眠って、俺が左目のカラコン付けてから起きてたら、こんなことにはならなかったけど」
「…あなたは…っ…」
「たられば言ってもね?」
――…その
「麗蘭街の…支配者…っ?」
獣
こそ。
――…まばゆい金髪からしたたる滴が
見上げるわたしの頬に落ちてきたその時
「…ごめんね、朱里。
――…もう、逃がしてあげられない」
柔和さとおぞましさが共存する微笑みに囲われ、もう一度わたしにキスが降って
彼は頬のしずくごと、妖艶にぺろりと舐めとった。
震えながら呆然とするわたしは、涙を一筋こぼしたのだった――…。