バイオレット・ダークルーラー
「………、」
――…そして、血の気が引くようなめまいに襲われた。
脳に酸素がいっていないのか、白黒でチカチカとする視界。空気をかき集めるように深呼吸をしても、これが現実だと受け入れることが出来なかった。
…紫月さん。
彼の左目は間違いなく、すみれ色だった。
それだけではない。彼はわたしに「見つかっちゃった」と言った。…わたしがもう少し寝ていて、彼が左目のカラコンを付けていたらこんなことにはならなかったと。
ぶつかった男たちに近付かれたときより、狂気じみたままに彼らと対峙する紫月さんの声を聞いたときより、ずっとずっと恐ろしいものを携えて。
そして、とどめのように、「もう逃がしてあげられない」と言ったんだ。
「紫月様より、新品の洋服を預かっております。そのセットアップは転んだ時に汚れてしまっているから、着て帰るようにと」
「…これ、ブランドの…!」
「はい。好みに合わなかったらごめんねって伝えて、とも仰せつかっております」
店員さんはわたしが上体を起こしたのを確認すると、横に置いていた紙袋を差し出した。
それは若い女性に絶大な人気を誇るブランドの洋服で、大学生とか社会人の人がご褒美で買うくらい値段もする特別なもので。
(…なにが、どうなってるの…?)