イケメン男子と疑似恋愛⁉︎


コンコンッ──

突然、鈍い音が、二度鳴った。


「なーにやってんの」


ハッとして意識を音がした方へ向けると、廊下にいた佐野くんと目が合った。

──あっ…。

や、やばい……。


この状況を見られたことで動揺しまくりな私をよそに、私の髪を一掬いしたまま向葵くんは「…あ、康太。」と呑気な声をもらす。

……ちょっと向葵くん!!

その前に手を!手を離して…!

焦った私は目を泳がせて、どうにか向葵くんに気づいてもらおうとする。

湿気のせいで、キュッ、キュッと、くつが床にすれる音が響く。

まるでカウントダウンのように響く音は、私たちのところまで来るとピタリと止まる。

そのとき、佐野くんと視線が合った。

……ど、どうしよう。


「…やっと付き合ったんか」


予想していない言葉をかけられて困惑した私は「え、あ……」と言葉に詰まる。

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