近くて遠い私たちは。
2.いびつな兄妹、いびつな家族
1.サクの存在
サクとの出会いは、天井の高いホテルのレストランだった。入り口から足を踏み入れると、クッション性の赤い床が妙に心地よく、母に手を引かれながらも私はピカピカの黒い靴を見つめた。
続いて豪華なシャンデリアに目を奪われ、口をぽっかり開けて放心していた。
「美紅より二つ年上の優しそうなお兄ちゃんだからね?」
母に笑顔で促され、広いテーブル席でその親子と対面した。
「おれは世良 咲弥。ええっと……、十歳!」
ぎこちない物言いと表情で、彼はポリポリと頭をかいていた。
奥二重のくりくりとした瞳に、悪戯好きな色が見えた。風が吹くたびにサラサラと流れる前髪が柔らかそうで、後になってから手を伸ばした事もあった。
「渡井 美紅です。八歳です」
互いに自己紹介をして、はにかみ笑いを浮かべた。初めましての時は私も彼もかなり緊張していた。
私の母親と彼の父親が子持ちの単身同士で再婚する事になり、そこに私と彼が居合わせる事になった。
親たちが入籍すれば、たとえ血の繋がりは無くとも、私たちは兄妹になる。
数日後、私の名前は世良 美紅となった。高校生になった頃、セラミックと名前をからかわれる事もあったが、当時は違和感なくスッと馴染んだ。