好きって言えたらいいのに

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「…え?」
「CDデビュー。まだ発表されていないけど、グループ編成も変わって新しく若いメンバーも入る。」
 ヘイちゃんが海を見つめながら言った。

「俺…『F-watch』をあいつらとこれからも守っていきたい。とことん全力で、できるところまでやってみたいんだ。」
 繋いだ手をヘイちゃんがさらに強く握る。
 それから私の方を向いて、また
「ごめんな。」
と、言った。

「かさね、俺…覚えているよ、あの日のこと。黄色い帽子のちんちくりんがさ、手を震わせながらこっちを挑むような目で見上げて。正直ちょっと…いや、かなり嬉しかった。」
「ヘイちゃん…。」
 ヘイちゃんが私を抱き寄せた。

「せっかく『いい女』になったのに、俺の甘えでお前を苦しませてごめんな。」
 耳元でヘイちゃんのくぐもった声が聞こえた。

「お前を手放したくなくて…。周りを牽制する資格なんて俺にはなかったのにな。」
 ヘイちゃんの吐息が耳にかかった。
「かさねの人生、これからきっとたくさんの人に愛される。俺…一緒にいられないけど、ずっとかさねの幸せを願ってる。」

「ヘイちゃん、嫌だ!」
 ヘイちゃんの言葉を止めないと、ヘイちゃんはどこか遠くに行ってしまう気がした。
 だけど私の声は空しく、虚空の中に消えていった。

「…もうそばにはいられない。ごめんな、かさね。」
 ヘイちゃんはそう言って、私から体を離した。

 ヘイちゃんが眼鏡の奥で泣いていた。
 私も泣いた。
 
 ずっとがんばってきたヘイちゃんのCDデビューが決まって、本当は『おめでとう』って言って笑いたかった。笑い合いたかったのに。
 涙がポロポロ、ポロポロと零れ続けて、帰りの車内では何も言葉を紡げなかった。


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