好きって言えたらいいのに
第五章 月日は過ぎて

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 あれから10年が経った。

 朝、いつものように起床して、身支度を整え、1階に降りる。おばあちゃんやお母さんと談笑をして、朝ごはんを食べる。準備が終われば、店先で開店の支度をするお父さんやお姉ちゃん、お義兄さんに声をかけてから出勤だ。
 変わらぬ私のルーティーン。
 27歳になった今、私は高校の事務職員をしていた。八百八を勝手に助けるつもりでいたのだけれど、しっかり者のお姉ちゃんはあっという間に、会計士として働いていたお義兄さんを掴まえてきてしまった。手持ち無沙汰になった私は公務員養成の専門学校を卒業し、現在の職に至る。
 ようやく仕事にも慣れてきて、少しだけ周りを見る余裕もできてきたような今日この頃である。
「おはようございまーす!」
「おはよう。」
 私の横を女子高生たちが駆け抜けた。楽しそうに笑うたびにスカートのひだが揺れた。
 私にもあんな頃があったなと懐かしく思う。それから、またおばさんみたいなことを考えてしまったなと笑みが漏れた。

「ねえねえ、昨日の『F時計』観た?!」
「観た、観たー!やうっち、超かっこ良かったー!」
「私も佐竹君の筋肉やばくない?って思ったわー。」

 『F-watch』は今や『雷鳴』と並んで、ジャニスの人気グループとなっていた。
 彼らの冠番組である『F時計』もバラエテェーとして好評で、メンバーが特技を活かし、様々なことに挑戦していた。特に『F-watch』の由来である『花時計』から、全国の野山の珍しい花を探し出して、交配などをしながら新品種を作るという長期企画は老若男女に受け、その企画が始まった6年ほど前から、彼らの知名度は一気に全国区に広がった。

 ヘイちゃんは最年長の『ヘーちゃん』として頭脳派の成瀬君とともにクイズ番組でMCをしたり、復帰した矢内君と最年少の幹君とともにコント番組に出演をしたり、そうかと思えば『F-watch』の曲ではメリハリの効いたダンスパフォーマンスをしたりと、芸能界の第一線で、見かけない日はないんじゃないかというほどに活躍をしていた。
 我が家では、特にお父さんがヘイちゃんの出演している釣り番組を好んで観ていた。

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