好きって言えたらいいのに

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 順風満帆に思えた『F-watch』の活動に激震が走ったのは、それからしばらくしてからのことだった。

『メンバーの矢内優斗が休養へ。』
 人気メンバーの矢内君の突然の休養発表に週刊誌やワイドショーがこぞって彼らを取り上げたのだ。発表された内容は、彼が社会不安障害を発症して治療に専念するというものだった。
 そこにさも面白いかのように、尾ひれ背びれいろんなストーリーがついて、『F-watch』は好奇の目に晒されるようになった。
 矢内君のおばあちゃんにあたる女優の矢内香月が彼ら『F-watch』のデビューをゴリ押ししたのだとか。その重圧に矢内君が耐え切れなくなったのだとか。

 そんな内容の夕方のワイドショーを見ながら、お母さんが呟いた。
「ヘイちゃん、大丈夫かしらねえ。魚富さんにも連絡は来ていないみたいだし。」
「迷惑がかかったら悪いとか考えているんじゃない?あいつ、なんだかんだ責任感だけは強いし。」
 春休みで家に戻ってきているお姉ちゃんが、せんべいを頬張りながらそう言った。

 ヘイちゃんが心配だった。
 でも、心配になったらすぐそばまで駆け寄ることのできたあの頃とは違い、私には今、どうすることもできなんだと思い知った。ヘイちゃんはとても遠い存在になってしまったのだ。
 
『俺、『F-watch』をあいつらとこれからも守っていきたい。とことん全力で、できるところまでやってみたいんだ。』
 海辺でそう教えてくれたヘイちゃんの、決意の籠った眼差しを思い出す。

『ヘイちゃん、がんばれ。』
「…ヘイちゃんなら、きっと大丈夫!」
 私はお母さんやお姉ちゃんにそう答えた。自分でもびっくりするくらい自然に笑えていた。

 私の苦すぎる初恋は、どう足掻いてももう戻らない。
 だけど、これからもずっと彼の夢を応援し続けたいと、そう思った。
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