好きって言えたらいいのに

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 教室に着くと待っていましたと言わんばかりに、夏葉が声をかけてきた。
「かさねー!アンタんちのキャベツ、定価の7割で売ってくれないかなあ。」
「文化祭の焼きそばのこと?」
「ごめんねー、無理を承知でのお願いなんだけど、B組には負けたくなくてさあ。」
 夏葉が両手を合わせて首を垂れた。

 うちの高校は2年になると各クラスで模擬店を出店する。
 仕入れや機材のレンタル、当日の販売、売上総利益の計算をすべて自分たちで行い、一番儲けの大きかったクラスが表彰されるというものだ。
 ここまで本気で取り組むのは商業高校所以のものかもしれない。
 友人の関根夏葉はクラスの実行委員になったことでより熱が入っているようだった。

「かさね、おはよ。アンタんちって八百屋だったけ?」
 夏葉の勢いに苦笑していると、正太郎がひょっこり顔を出した。
「おはよう、正太郎。そうだよ、知らなかったっけ?」
 池田正太郎はうちのクラスの数少ない男子である。あまり男子って感じはしないけど。
 美容師を目指していて、いつか自分の店を持つ時のために商業高校に入ったって言っていたっけ。今日はおでこにかわいいゴムを1つつけている。

「かさねのうちは、お姉さんが大学の農学部に通っているから、かさねが経営の方を勉強したくてウチに入ったのよ。えらいでしょう!」
 夏葉が私を抱きしめて、まるで自分のことのように誇らしそうに言った。
「アンタが言うことじゃないでしょうが。」
 正太郎が困ったように首を振るうので、思わず私は吹き出してしまった。

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