好きって言えたらいいのに

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 生まれた時からそばにいる近所のお兄ちゃん。いつも優しく私に声をかけてくれるから、気持ちがほんわり温かくなって、私も小さい頃から「ヘイちゃん、ヘイちゃん。」って懐いていた。
 11年前ヘイちゃんが芸能事務所に入った時、商店街ではちょっとした騒ぎになった。実感がわかなかった。でも、近所のおばさんが貸してくれたBS放送の録画DVDを見て、私は向かいのお兄ちゃんがキラキラ輝く「みんなのヘーちゃん」になってしまったことに気がついたんだ。

 そこで生まれた『嫉妬』という感情は、小学校1年生では理解するのに難しいものだった。増え続ける『独占欲』。私はなんだか苦しくて、楽しそうなヘイちゃんを見て喜びたいのに悲しくて、ずっとイライラしていて、周りからは「遅れてきた第一次反抗期」なんて揶揄されていたっけ。

『ヘイちゃん、私と付き合って!』
『10年経って、お前が『女』になったら考えてもいいよ。』

 10年経っちゃったよ、ヘイちゃん。

 あの頃の威勢はどこへやら。私はもう、気持ちを安易に伝えることができなくなっていて、ただ『魚屋ヘイちゃん』のそばにいられる今に甘んじている。


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