死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「穂稀先生、今日は俺があづを送ります。先生はまだ仕事があるでしょう。それに、俺を助けてくれたあづに、礼をしないと気が済まないんで」

 アビラン先生を説得するのはもちろんだけど、今あづを家に帰すのも、よくないと思った。穂稀先生と一緒に帰らせたら、あづはまた暴力を受けるかもしれないと思ったから。できることなら、アビラン先生が日本に戻ってくるまで、あづをどこかで匿いたい。そうすればきっと、あづがもう虐待を受けることはないから。

「そう? それでもいいですか」
 穂稀先生は警察に確認をとる。
「ああ、構わない」
 コクリと、警察は頷く。
「じゃ、帰るか」
「奈々とあづが帰るなら俺らも帰る。な、恵美?」
 潤が恵美に確認をとる。
「うん!」
 恵美は元気よく頷いた。

「怜央はどうすんの。帰るのか?」
 あづが怜央のそばに行く。
「ああ、俺も帰る。それより、あづ体調は?」
「よくはないけど、さっきみたいに倒れるほどじゃない」
「それなら家帰ったらさっさと休めよ」
「うん」
 怜央を後ろに連れて、あづは俺の隣に来る。
「はあ」
 潤が大きなため息を吐く。

 多分なんで怜央も一緒に帰るんだと思っている。だが、そういったらあづが不機嫌になるかもしれないから、ため息を吐くだけで留めておくつもりなのだろう。
 俺達は廊下を通り過ぎて、自動ドアを抜けて病院を出た。

「あづこのまま家帰るか?」
 病院からある程度離れたところで、俺は言った。
「……」
 あづは何も言わず、首を振る。

 家に帰りたくはないけど、理由は聞かないでとでも言いたげだな。まあ理由は虐待だから、そうなるのも無理ないか。
 どうしよう。あづが家に帰りたがらないのは予想済みだったけど、俺の家じゃ、爽月さんがいるから、あづを何日も泊めることなんてできないし。アビラン先生が来るまで、あづを匿いたいんだけど、俺の家じゃ。

「そしたら俺今一人暮らししてるから、来るか?」
 潤がいう。
「は? お前あの豪邸の他に部屋あんの?」
 思わずそう突っ込んでしまった。
 嘘だろオイ。ただでさえあんな豪邸があるのに、さらにアパート借りてるのかよ。
「ああ。ちょっと常に執事やメイドに見張られてる環境が嫌で、一人暮らしをしてる。まぁ月一くらいの頻度で帰ってるけど」
「ハッ。金持ちの特権だな」
 俺は潤を嘲笑した。
「返す言葉もねぇわ。……あづ?」
 あづが一向に会話に入ってこようとしないのを変に思ったのか、潤は首を傾げる。

「あーなんでもない。潤の家早く行こうぜ」
「ああ、おう」
 首を傾げながら、潤は頷く。
 こうして、俺達は潤の家に行くこととなった。
 怜央と分かれて、四人で潤の家へと向かう。
 潤が住んでいるアパートは、病院から歩いて十五分くらいのところにあった。
 
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