死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「だって自殺なんて、かなりひどいことがないとしようと思わないだろ?」
 あづは俺を見下ろし、笑って言う。その態度が癪に障った。
「そんなのお前が辛い目に遭ったことがねぇから言えんだよ。いいよな恵まれてる奴は」
 何も知らないくせに。
「あ? もういっぺん言ってみろよ。殴んぞ」
 鋭い眼光で俺を睨み付け、あづは俺の腕を掴んだ。
「じゃあ殴れば? 病人に怪我させたら大問題だけどな」
「あーもうやめだやめ。こんな奴話すのも無駄だわ。あづもう行こうぜ」
 手を顔の前で左右に振ってから、潤はあづの腕を掴む。
「……わかった」
 俺の胸ぐらからあづは手を離した。
「じゃあさっさと帰れ」
 あづはベッドの上にあった枕を掴むと、それを俺の顔に向かって放り投げた。
「わっ!?」
 受け身も取れずに俺はベッドに倒れ込む。折れた足に激痛が走って、俺は思わず顔をしかめた。
「奈々絵のバーカ! 明日は絶対話聞かせろよ!」
 そう叫ぶと、あづは大きな足音を立てながら病室を出ていった。
「おっ、おいあづ! 空我!」
 潤はずんずん歩くあづを呼び止めるかのように名前を呼ぶ。空我って名前だったのか。
 枕を顔からどかしながら、俺は二人の声を聞いた。
「空我って呼ぶな!」
 そんな叫び声の後、二人が走る音が聞こえた。走って病院を出てくつもりなのだろう。
「……なんなんだあいつ」
 足音を聞きながら、俺は小さな声で呟いた。
 あづは変だ。異様なほど俺に構ってくる。俺に構ってくる奴なんて家族以外一人もいなかったのに。
 普通、自殺未遂をした上、助けてくれたお礼も言わない奴にあんなに話かけるものだろうか。俺なら絶対にそんなことしない。
 明日も来るつもりみたいだし、本当に意味が分からない。なんであんなに俺に構うんだ。……俺といたって楽しくないハズなのに。
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