死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「痛っ!」
 両足が血で真っ赤に染まっていた。顔をしかめながらYシャツのポケットからハンカチを取り出し、血を拭った。こんなの気休めにしかならないけど。
「奈々絵ーどこ? 奈々絵ー?」
 涙を拭っていたら、廊下から姉の紫苑の声が聞こえた。俺は窓を見上げた。すると廊下では、姉が俺を呼びながら歩いていた。よく見ると、俺の制服のズボンを持っている。姉の数歩後ろに佐藤もいた。きっと彼女かその友達が中等部に行って姉に言ってくれたのだろう。スカートを掃いてるのを見られるのが嫌だった俺は、ドアを叩いているのを教えた。
「奈々絵! 無事でよかった!」
 ドアを開けて中に入ると、姉は血まみれの俺を抱きしめた。
「姉ちゃん……うっ、うああぁぁっ!」
 涙が堰切ったように溢れ出す。怖かった。怖すぎたんだ。生きていけないと思った。地獄に突き落とされた気がした。姉が来てくれて、本当によかった。
「赤羽くん、大丈夫? 着替えられる?」
 泣き止んだところで、佐藤が控えめに声をかけてくる。
「ああ、着替えるよ。巻き込んでごめんな佐藤」
「ううん、いいよ。大丈夫。草加達が悪いし」
 首を振って佐藤は言った。
「じゃあはい!」
 俺にズボンを渡して、姉と佐藤は後ろを向く。直ぐにズボンに履き替え、スカートを佐藤に渡した。それから俺は後ろを向いて、佐藤が着替え終わるのを待った。
「もうこっち向いて大丈夫だよ」
「ああ」
 佐藤にいわれ、俺は振り向く。
「奈々絵これからどうする? 保健室行ったらすぐ帰る?」
 姉が首を傾げて言う。
「うん、帰りたい」
「私も帰ろうかな」
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