イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!

「そうですよぅ。私は着替えがありますけど、中村さんは違うでしょう? その恰好で電車に乗るのは止めた方がいいと思いますよ」

多恵さんまでニコニコ言うから、一気に立場は不利に。

「いつもの場所に停めてあるから。先に乗ってて。お前のカバン、オレが取ってくる」

「え、そんなの自分でっ」
「フロア戻って、残ってる奴らに詮索されたくねえだろ」

坂田くんの行動は素早かった。
言い訳を考える間もなく、有無を言わさずわたしに車のキーを握らせ、スマートな動作で出て行ってしまい……。

「いい男だわぁ」
「男前だなぁ。姉ちゃん、いい男捕まえたなぁ」

べた褒めにあははって乾いた笑いを返し、ふぅっと肩を落とす。


車の中で2人きり、なんて。
絶対避けたかった状況なのに……

こうなったら、せめて動揺を見せないようにしなくちゃ。
冷静でいなくちゃ。

ドキドキなんてしない。大丈夫。

送ってもらうだけ、それだけだ。
彼のジャケットをきゅっと握り締め、繰り返し自分に言い聞かせた。
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