桃色のドラゴンと最強神~ドラゴン・ノスタルジア ~∞クスコ∞

女の子プリーズ!

「やあ♡ 君、サワちゃんっていうの?」

「ええ。そうだけど……」

 サワは大変正直な性格であるため、うっかりクナドに返事をしてしまった。

「わー♡ キャーワイイ名前だねっ!」

「きゃーわいー?」

 サワはクナドの言動に首を傾げつつ、カナメの右斜め後ろで戦闘態勢を取った。

 カナメは次の霊獣を呼び出すため、召喚の呪文を発動している。

「カナメ様…………この男は」

「気味悪いだろうが、無視しながら戦ってくれ」

「…………はぁ」

 クナドの言動くらいで動じるようなサワではない。

 彼女の落ち着きに期待しよう。

 一方クナドは、サワとの会話が成立し、有頂天になっていた。

 頬を赤く染め、心臓がドキドキし、体がソワソワし始め、全身がギュンギュンしまくり、彼の脳内では女性とのタップダンスが始まっている。

 霊獣どぎまぎメモリアル。

 今、始まる────。

 舞い上がり過ぎたため、クナドの心の声は、駄々洩れになった。

「ヤバいくらいカワイイ。めっちゃ触りたい。顔ちっちゃ。巨乳の谷間にアタマをうずめたい。清純派乙女の雰囲気。誰かに血を飲ませた事があるんだろうか? 無いなら真っ先に、僕が、僕が、僕が、飲ませてもらうんだ────」

「全部聞こえてる」

 サワは白蛇が先端についた杖を取り出し、浄化の呪文を詠唱し始めた。


「呪われし者を救いたまえ」


 天空から豪雨の様に、純白の雨が降り注ぐ。


 ────ザーーーーッ!!!


 クナドめがけて集中的に。


「…………う、わぁーーーーッ!!」


 その雨は鋼より硬くて太いしめ縄に、姿を変えた。

「ぐ…………ぐるじい…………」

 虹の橋の横には、白蛇の頭の形にそっくりな巨大な石が出現し、クナドの体はその石に同化していくかのように、完璧に縄で括り付けられた。


 その間、カナメは次の召喚術を完成させた。


『────サキ』


 やがてクナドが括り付けられた石のすぐ横に、パッという音と共に閃光が放たれ、セキレイと呼ばれる小さな鳥が姿を現した。


『お呼びでしょうか。カナメ様』


 小鳥はみるみるうちに、濃紺色の髪を肩で切りそろえた、少女の姿へ変化した。

「わー♡ また女の子、登場!」

 クナドはさらに、とろけるような表情へと変わった。

 自分の体がしめ縄でぐるぐる巻きに縛られていることなど、意に介さない。

 彼は念を使って術を唱え、黒羽織の袖から六角形をした緑色の小石を、サッと空中に取り出した。

 真剣な表情へと早変わりし、すかさず小石にメモを取ろうとしている。

「サキちゃん、初めまして! 君って岩時の地を守る前は、高天原に住んでた感じ?」

「…………?」

 いきなりクナドに質問されたサキは、キョトンとしながらカナメの方を見た。

 カナメはサキに表情で伝えた。

『放っておけ。ただの下衆だ』

「わかりました」

 サキはこくりと頷いた。

 興奮したクナドの声は、包み隠さず誰の耳にも明らかになった。

「とにかくとにかく白くて滑らかな肌。細い体。切れ長の目。超絶美少女。胸は小さめ。見ための上品さがまさにSランク。中身はどうなんだろ。表情は慎ましくて控えめだ。誰かに血を飲ませた事があるんだろうか? 無いなら真っ先に、僕が、僕が、僕が────」

「僕が何なんでしょう?」

「知らん。相手にするな」

 カナメに諭されたサキは、少し考えてから面白がる様子へと変わり、クナドに向かって笑いかけた。

 氷に似た涼やかさの微笑である。

「私が教えて差し上げましょうか、真実を」

「…………?」

 サキは短い呪文を詠唱するとともに、両腕を広げた。

 彼女の背中に、純白の翼が広がる。

 翼から12本の羽根が抜け、それらが白い羽冠に姿を変え、クナドの額の上にピタッと嵌った。

「…………サキちゃん、コレ何?」

「邪心を殺す『真実の輪(ベリタスワール)』です」

「…………???」

 今の所クナドの体に異変は無い。

 サキは平然とした様子でクナドを見つめている。


 カナメは次の召喚を行った。


 ────女性しか現れないな。


 何故だ?!
 

 両手に持った七支刀(しちしとう)を見つめて首を傾げ、カナメは不可解な気持ちに囚われ、クナドの方を見た。

『この男の欲望のせいなのか?』

 カナメは刀剣を睨みながら首を傾げた。

 岩時神社の獅子であるカナメは、霊獣たちを束ねる存在である。

 そのため、岩時神社を守る白龍・久遠から直々に授かった名刀『七支刀』で、霊獣達を六体まで召喚することが出来る。

 七支刀は剣身の脇に六本の剣の枝が生えている、純白の刀剣だ。

 霊獣を一体ずつ召喚するたびに、切っ先以外に伸びている、六本ある『剣の枝』が一つずつ抜け落ちるという仕組みである。

 一体召喚すると力が落ちるため、同時に六体を召喚することは難しい。

 カナメ本人も、やってみた事は今まで一度もないのだが。

 力が復活するとまた『剣の枝』が生えて来るが、それまでは普通の剣として使用するほかは無い。

 自分の武器とはいえ謎な部分が多いため、今まであまり召喚を目的として使用したことが無かった。

 サワとサキを召喚したため、柄に最も近い『剣の枝』の二つが抜け落ちており、剣の枝は現在のところ、残り四本。

 抜けている部分は、真っ直ぐになっている。

 七支刀で呼び寄せる事が出来るのは、自分と同レベルかそれ以下の力を持つ、偶然近くにいた霊獣のみ。

 呼びたいから念を発動するわけなのだが、それに応じてくれるのが誰なのかは、呼び寄せてみないとわからないのである。

 柄に顔をつけると、また女性が応じてくれている。

 …………謎だ。

 どうして今回は、女性ばかりが呼ばれて来るのだろう。


『────イズミ』


 『剣の枝』の一つが、光り輝く。


 放たれた閃光は、パッという音と共に巨大化し、美しい狐の姿へと変した。


『あら、カナメ様どうしたの?』


 その狐は徐々に、橙色のショートカットを快活に揺らす、明るい笑顔が魅力的な少女へと姿を変えた。

「わー♡ また女の子だ! 女の子だ! 女の子だ!」

 クナドのワクワクは止まらない。

「君、イズミちゃんっていうの? 僕、君の事知りたいなー。お願い、石の番号教えてよ! 連絡するから」

「…………私に言ってるの?」

 イズミは、白蛇頭の石に括り付けられたまま喋る不気味な男に、嫌悪の表情をありありと浮かべた。
   
「ん? 他に誰かいる??」

「そういう意味じゃなくて」

「ねぇ、行きたいたい場所とかってあるかな? 僕が連れて行ってあげる」

「バカなの?」

「趣味とかあったら付き合うよ! いつが暇?」

 クナドは六角形の小石を見つめながら、スケジュールを確認しだした。

「…………誰に向かって言ってるの? って聞いているんだけど」

 イズミの言葉を聞かないクナドは、また心の声が駄々洩れ始めた。

「腹黒小悪魔風。胸は大きめ。笑うと片方だけ口角が上がる。男を見下す感じが超クール。実はかなりエロいとみた。体中触ったら、どんな声を出すんだろう? 血は美味しそうだけど、甘すぎて呪われないといいなぁ。でへへへへ。誰かに血を飲ませた事あるのかな? コイツならありそうだ。でも無いといいな。ありそうで、無い。そういうのもありだな? なら真っ先に、僕が、僕が、僕が、飲ませてもら────」

 クナドの言葉は、最後まで続かなかった。

 額から後頭部へと、激痛が走る。

 ぐるりと巻かれた白い羽冠が、彼の脳内をギュギュギュッ!! と猛烈な勢いで締め付けたのである。


「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 絶叫があたりに響き渡った。


 サキはクナドに尋ねた。


「どうですか? 邪心はちゃんと死滅しそうですか?」


「痛い! 痛い! 痛いっ!!!」


 クナドに返事をする余裕はない。


 これが邪心を殺す『真実の輪』の威力だった。
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