目下の微笑
彼らはとても丁寧に生きておられる。
朝は太陽の光で目を覚まし、
自分自身に向かって「おはよう」と言う。
「今日も幸せな日になりそうだ」
とも言い、珈琲を淹れられる。
ポトポトとフィルターから落ちる珈琲には
目もくれず、洗濯機を回される。
二度抽出された珈琲をもち窓辺に置くと、
お気に入りのレコードを取り出し、
丁寧にふかれる。
ホコリを取られたレコードは、
これまた丁寧に、
ターンテーブルに乗せられ、
また、丁寧に針を落とされる。
珈琲を飲み終わると、
シンクにマグカップを置き、
少し熱めのシャワーを浴びる。
ここでもまた鏡に向かって「おはよう」と言う。
首の締まるような洋服をお召になると、
まだ足の形に合っていない革靴を履く。
誰も居なくなった、
珈琲の薫りがする部屋に向かって
「いってきます」
と言われると、部屋からシンとした返事が返ってくる。
外に出て、太陽を見上げると、
ニッと広角を上げ、もう一度
「いってきます」
と言われた。
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