漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~



 「ねぇ、千絃。聞いておきたいことがあるの。ずっと知りたくて、でも怖くて聞けなかったこと」
 「…………あの約束の事だな」
 「うん。そうだよ」


 響の神妙な雰囲気を察知したのか、聞かれることを予想していたのか。千絃は驚く事もなく当然のように頷いた。



 「知るのが怖かったのは、千絃に嫌われたと思ってたから。だから私の方が忘れようって逃げてたのかもしれないんだ。だから、今は恋人になれたから、少し安心して聞けるって思ってしまったのは………私の弱さだと思う。けど、聞きたいの。千絃が剣道を止めてしまった理由を。私たちの約束を破ったわけも」



 自分の気持ちをゆっくりと言葉で伝える。彼の視線はまっすぐ響を見つめている。彼は真剣に話しを聞き、答えてくれようとしてくれるのが伝わってくる。だから、安心して言えるのだ。

 「昔のあなたを教えて」と。


 逃げてしまった自分を許してくれとは言わない。今更、昔の千絃の気持ちと寄り添おうとしても遅いかもしれない。

 けれど、やっと好きだとわかった相手の事を知りたいと思ってしまうのだ。
 大切な幼馴染みであり、恋人の千絃の事を。



 すると、千絃はすぐに口を開き「わかったよ」と、優しく返事をしてくれる。


 ずっとずっと知りたいと思っていた事が知れるとなると、やはり緊張してしまうもので千絃の言葉を耳にするまで、鼓動が大きくなったように思えた。



 「………結論から言うと、俺は剣道が出来なくなったから止めた」
 「出来なくなった?」
 「あぁ………右膝を怪我した。剣道も出来ないと言われたんだ」
 


 千絃自身はいつものように無表情で話せていると、思っていたのかもしれない。
 けれど、彼の言葉と表情からは苦しさが伝わってきた。



 響は知らなかった昔の真実に驚き、そして強くつよく後悔をしたのだった。






 
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