心を ほどいて  ~コーディネーター麻里絵

「田辺さん おしゃれな店 知っているのね。」

「まあね。営業マンは 耳が早くないとね。」

「それだけかな?」

「んっ?もしかして 麻里絵ちゃん 気になる?」

「そういう訳じゃ ないけど…」

私は きまり悪くなって 俯く。


「この前 麻里絵ちゃんのこと 聞いたから。今日は 俺の話しする?麻里絵ちゃん 聞きたいことある?」

イタリアンは 気楽で。

寛いだ空気が 2人に漂う。


「そうね。じゃ 田辺さんの 初恋のこと 聞きたいなぁ。」

少女じみた 私の言葉に 田辺さんは

「初恋?」

と言って ケラケラ笑った。


「うーん。初恋って。初めて 好きな子が できたのは 中3の時。同じクラスの 陸上部の子で。足が長くて。元気な女の子だったな。」

「へぇ。告白したの?」

「まさか。黙って 陰から見つめてた。」

田辺さんの言葉に 2人で笑う。


「初めて 恋人ができたのは 高2かな。いい思い出だよ。一緒に 図書館で 勉強したりして。大学で 離れちゃって。そのまま 別れたけど。」

私は 自分の恋を いい思い出とは 言えない。

一瞬 私の表情は 曇った。


「麻里絵ちゃん。」

改めて 私を 呼びかける田辺さん。

私は 「んっ?」と顔を 上げる。


「麻里絵ちゃんを ずっと苦しめているのは 恋人?親友?」

「うーん。多分 自分…」


「それなら もういいんじゃない?解放してあげようよ。」


田辺さんの 優しさに 私は 目を逸らせない。




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