男心と春の空
墓参り
お盆。

高松雄介は珍しく休みを丸々と取っていた。

あれから1年4ヶ月。

高松雄介の運転する車に乗り込む。
うちの車はベンツのSUVだ。

高松大介が遺していったものの一つ。

俺には立派過ぎるけど、高松雄介には丁度いい。

途中、花屋で花を買う。
「何か適当に選んできて」と高松雄介からお金を渡されて、俺の仕事。

白い菊とゆりがメインのシンプルな仏花を選ぶ。

一番シンプルで、一番綺麗だったからだ。

車に戻ると、俺の選んだ花をチラッと見て、高松雄介は「いいじゃん」と笑った。

俺は何も言わなかった。

街の中にある墓地に着く。
ここの空間だけ、まるで壁が覆ってるように空気が違う。
なぜか、墓地は落ち着く。

別にお母さんが眠ってるから、とかそういうんじゃない。
田舎のような、昭和のような、素朴な空気が俺を落ち着かせる。

ぎっしりと規則正しく並ぶ墓石の前の小道をひょいひょいと高松雄介が進んでいく。

俺は自分の親の墓なのに、まだその位置を正確に覚えられてない。

高松家と書かれた墓石がやっと目に入ってきた。
しかし暑い。

お母さんは高松家の人間なんだなあと思ってしまう。

同じ墓に入りたくて再婚したんだから、そりゃそうか。

俺は高松大介と養子縁組を組まず、浜田のまま今に至る。

選びなさい、と言ってくれたのは高松大介とお母さんだ。

チラッとお父さんのことがよぎったのかもしれない。

みんなから「はまちゃん」って呼ばれてるし、くらいの気持ちだった。

養子になることを俺が選ばなかった。

選んでいれば高松大介の財産が俺の手にも入ったのかもしれないけど、今は高松雄介に食わせてもらってるし、不便はない。

高松雄介がライターで線香に火をつける。

「もう1年か」

渋い声が響く。

「天国でも車に乗ってそうだよね。」

俺が呟くと、かっこいい顔がクシャッと笑った。

「懲りねえな。」

うん、でも、俺はそんな二人であってほしい。

死んだくらいで懲りるなら、酔っ払って車なんて運転しないでほしかったからだ。

死んでも辞めないでいてほしい。

線香のいい香りが夏の空に上っていく。

「海はさ」

高松雄介が俺を見下ろす。

「前の父ちゃんとこに戻ろうと思わないの?」
「え?」

思考回路が止まる。

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