男心と春の空
失恋
翌日。
バイト前に図書館に寄る。

森の中に突然建てられたような本の迷路。
やっぱりいつ来てもこの空間は好きだ。
心が洗われるような感じ。

顔ぶれも大体一緒。
この常連の中に俺もそろそろ入るだろうか。
そんなことをカウンター前を通りがてら思う。

一般の人たちも結構入ってるし、その中のいつも来てるおじさんの顔を覚えた。

ウロウロと少し迷路を楽しみながら歩み進める。

勉強する学生たちがちらほらといるだけで、基本的に閑散としてる。

特にテストが近くない今は学生が少ない。

ズンズンと進めば進むほど森と本の迷路に迷い込むような感じがすごく好きだった。

そして一番奥の席に偶然アキナの姿を見つけた。
夏休み明け、最初の姿だ。
こうして偶然でも会ってしまうんだ。

机いっぱいに本とルーズリーフとペンを広げてる。

俺はゆっくりと近づく。
全然俺の気配に気付いてないようだ。

向かいの椅子を引いて座ったところで、やっと顔を上げた。

少し驚いたような顔をする。
走り続けていた手が止まる。

誰もいない本棚の陰。

窓の外の樹たちしか見ていない空間。

俺は言わないと後悔すると思ってたことがあった。

「彼女と別れた。」
「え?」
「俺、アキナのことが好きっぽい。」

早く言わないと、樋川に取られると思った。
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