男心と春の空
縁側にあるサンダルを足につっかける。

「じろう、買い出し行ってくるからねー。」

俺がじろうの頭を撫でると、濡れた鼻をツンツン手に当ててきた。

じろうはお父さんの唯一の家族だった。

軽く戸締りをする。
正直鍵をかけなくても、入ろうとする人間なんてこの島にはいない。

自転車の鍵を外す。
お父さんのかなり古いやつだ。

買い出しはいつも近所の18時に閉まるスーパー。

品揃えは驚くほど悪いから、手に入る材料をなんとなく買う。

大体適当にお父さんが調理する。

前まで家事のほとんどをやったことのなかった俺が、今では一通りできるようになった。

お父さんと阿吽の呼吸で準備ができるようになった。

ご飯も準備できるようになった。

掃除だってやる。
洗濯もやる。
柔軟剤にもこだわる。

前使ってた高い柔軟剤はこの島では手に入らない。

お金はないかもしれないけど、楽しく過ごしてる。

煮魚や刺身に姿を変えるのを想像しながら新鮮な魚を選ぶ。

ああ、これ絶対刺身で食べたら旨そうだな。

そんなことを考えるのが最近の楽しみだ。

釣りをしてても思う。

ついでにトイレットペーパーとティッシュも買う。
洗剤も。

愛想が悪いくせに話が止まらないおばちゃんをなんとかくぐり抜けて、店を出る。

すごくいい天気。

自転車を漕ぎ始める。

暖かさの中を気持ちのいい潮風が吹き抜ける。

最高。
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