男心と春の空
宿に戻って煮魚を火にかけた頃、古い軽のバンが宿の前に止まった。
空港まで迎えに行ったお父さんが帰ってきた。

俺は軽く身なりを整えてサンダルをつっかけて表に出た。

お父さんが先にふわりと降りる。

そして後ろのドアを開けた。

中から一人の女の人がゆっくり降りてくる。
髪が風になびく。

綺麗。

風が俺の心に吹き抜ける。

「こんにちは。」

俺が声をかける。

リラックスしたロングワンピースのその人がゆっくり顔を上げて俺を見る。

ハッとした。

「八重島に聞いた。」

そう言ってその顔が照れ臭そうに笑う。
すごく好きだったその顔。

まじか、八重島。

「元気だった?」

アキナが変わらない声で言う。

「うん、すごく元気だった。」

二人の間を気持ちのいい潮風が吹き抜けた。
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