幸せにしたいのは君だけ
時間は私の葛藤をよそに過ぎていき、一月も下旬を迎えた。

寒さは段々厳しくなり、春になる日が今から待ち遠しい。

私は来週末から完全に総務事務に異動する運びとなっている。


そんなある夜、圭太さんからいつものように電話をもらった。

自室でベッドに腰かけながら話す。


『俺、来月から九重本社に勤務になるから』

「えっ!? それって……」


思わずベッドの上で正座してしまう。


『海外赴任が終了になるんだ』

「……ずっと日本で働くの?」

『ああ、日本で勤務して、日本で住む。佳奈のすぐそばにずっといるよ』


唐突な出来事に声が出ない。

ドキドキと心臓が嬉しいリズムを刻みだす。


「ほ、本当に?」

『二、三日中には正式な辞令が出る予定』


穏やかな声に泣きたくなる。

ずっと日本にいてくれる。

ずっとそばにいられる。

仕事で会えない日があったとしても同じ国内にいてくれる。

どうしても会いたくなったら、時差を気にせず会いに行ける距離にいてくれる。

それだけで十分すぎるくらいに幸せだ。


「でも、ずいぶん突然じゃない? そんな素振り全然……それに九重の海外赴任期間って平均して二年くらいなんでしょう?」

『ああ、まあ……な。任されていた事業が一段落してキリがいいっていうのもあったんだと思う。海外赴任期間は人それぞれだし……』


何事もはっきり言い切る彼にしては歯切れの悪い返事に思えたが、嬉しいニュースに胸がいっぱいであまり気にならなかった。
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