幸せにしたいのは君だけ
「……恋人なのに、危険なの?」

「恋人だから、だよ」


よくわからない返答をしながら、彼はどんどん歩みを進める。

人目をまったく気にしていない。

九重副社長ほどではないが、グループ会社の中でも彼は有名だ。

知り合いはもちろん、顔を知っている人はとても多い。

今も遠目に多くの人から注目されているのに、歯牙にもかけない。


「あの、圭太さん……手を」

「手?」

「離して」

「なんで?」

「周りの人に見られてるから……」

「見せておけばいいだろ? それとも佳奈は誰かに見られたら困るのか?」


どこか疑うような眼差しを向けられて、戸惑う。


「こ、困らないけど……でも」


あなたは見られたくないんじゃないの?


「だったらこのままでいいだろ」


なぜか一気に不機嫌になり、厳しい口調でギュッと絡めた指に力が込められた。


連れていかれた場所は、十階フロアにあるホテル内のラウンジだった。

ここは、お酒だけではなく紅茶やコーヒーのサービスがあるので、お酒に弱い人も気軽に利用できると聞いた記憶がある。

ウエイターに話しかけた圭太さんは、そのまま私の手を引いて店の奥へと連れていく。

案内された場所は、座り心地のよさそうなソファセットの置かれた小さめの個室だった。


ここならきっと人目を気にせず、落ち着いて話ができる。

そんな場所をすぐに用意できるなんて。

私では絶対に無理だ。

こういうところもこの人が有能といわれる所以だろう。
 
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