幸せにしたいのは君だけ
「ひとり百面相している姿も可愛くて仕方ないけど、そろそろ朝食を食べる?」

「え……あ、うん」


長い指がそっと私の目の縁にふれたと思ったら、そこに躊躇いなくキスが落とされた。

いきなりの甘い仕草に鼓動が跳ねる。


「……ごめんな、不安にさせて」


申し訳なさそうに眉尻を下げる姿に胸が詰まる。

罪悪感を抱いてほしいわけじゃない。


「け、圭太さんのせいじゃないの。私が勝手に誤解していたんだし……だから気にしないで。その話はもう終わったでしょう?」


そう、昨夜たくさん話し合って、お互い“ごめんなさい”も言い合った。

これ以上蒸し返す気はない。


「佳奈はやっぱり優しいな。じゃあ起きようか?」


甘く口角を上げる彼はやっぱりとても魅力的だ。


「あの、失礼じゃなければ私、なにか作るよ?」


勝手に台所をお借りしてしまって大丈夫だろうか、と危惧しながらも尋ねる。

すると圭太さんは小さく首を横に振った。


「大丈夫。少し前に届けてくれたから」


届ける?

ソファを指さされて、視線を向けるとセンターテーブルの上に大きな紙袋が置いてあった。


「副社長夫妻から、朝食と佳奈の着替えを渡された」


澪さん……!

さすが圭太さんの幼馴染みは抜かりがない。

そして非常に恥ずかしいけれど、とても助かるのが本音だ。
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