幸せにしたいのは君だけ
あの人。

九重に勤務する、澪さんの幼馴染み。



あまり公にされていないが、実は彼自身も立派な御曹司だ。

九重グループより規模は小さいとはいえ、日本で三本の指に入る、ホテル事業を主とした佐久間|(さくま)グループの跡継ぎ。


確か九重社長と佐久間社長が旧知の仲だと澪さんに聞いた記憶がある。

九重社長の口添えもあり、佐久間さんは修行も兼ねて九重グループに就職したらしい。



結婚式では独身女性の注目の的だった。

けれど当の本人は慣れているのか、どこ吹く風といった様子だった。


「ねえ、実際はどうだったの? 噂通りのイケメン?」

「……かなりの美形だと思うよ。一般的に言って」

「えー、いいなあ。私もそんな評判のイケメンに一度会ってみたい」


親友が鼻白む。


「……なんで澪さんと結婚しなかったんだろ。私なら、そんな風に好きな人をほかの人に任せたりしない」

「さあ、そればっかりは本人しかわからないんじゃない。幼馴染みの幸せを願って身を引いたとか? だとしたら優しいじゃない。強気の佳奈とお似合いだと思うわよ」

「そんな煮え切らない男性はお断り。相手のためを思って諦めるなんて、ただの自己満足じゃない」

「相変わらず、そういうところは辛辣ねえ」

「千埜の商社マンじゃないけど、そもそも、ほかの女性への想いを残した男性なんて恋愛対象に絶対ならない。いつも自分が比較されている気になるもの」

「まあね……私よりあの子のほうが好きなんでしょ、とか佳奈ならバッサリ言いそうだもんね。でも色々事情があるのかもよ。……ってあら、もうこんな時間。そろそろ帰ろう」


チラと腕時計に視線を落とした千埜が言う。
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