幸せにしたいのは君だけ
「そうだね……あ、ちょっと待って。お手洗いに行ってきていい?」


親友にひと言声をかけて席を立つ。

隣の席と細かな格子で区切ったこのテーブル席は、半個室のようになっている。

おかげで人目をあまり気にせず、赤裸々な恋の話ができた。


この店を訪れたのは初めてだが、料理もおいしかった。

また来たいなと考えながら歩き出す。


隣の半個室の前で軽く視線を動かしたのは、偶然だった。

どこかで見たような後ろ姿が目に映る。



あの人……もしかして……。

嫌な予感がする。


「佐久間、お前はどう思う?」


頭の中に浮かんだ名が耳に飛び込んできて、ビクリと肩が跳ねた。


佐久間……?


ドクン、と心臓の鼓動する音が大きくなった。


佐久間、なんてよくある名前だ。

こんな偶然、あるわけがない。

必死に自分に言い聞かせる。


気にせずさっさと通り過ぎればいいのに、どうしてか足が急に動かなくなる。


「そうですね。好意は持たれてるんじゃないんですか?」

「そうだろう! でもイマイチ彼女の反応が悪いんだよ……そうだ、お前まだしばらくこっちにいるんだろ? 今度、皆で忘年会しようぜ」

「嫌ですよ。なんで俺が先輩の恋愛に巻き込まれなきゃいけないんですか」

「お前、本当、幼馴染み以外には冷たいな」
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