紡ぐべき糸

3


正式に 仕事が始まったと言っても 新卒の社員に できる事は少ない。


啓子は 毎日 緊張感に包まれて 職場に向かう。
 

「林さん。そんなに 固くならなくて大丈夫よ。ゆっくり 覚えてくれればいいからね。」

啓子に 仕事を教えてくれる 田村さんが言う。


三十代前半で 二人の子供を持つ 田村さんは 穏やかで 面倒見の良い人だった。
 

「私 不器用で 気が利かなくて。」

啓子が 俯いて言うと、
 

「仕事って 繰り返しだから。そのうち 嫌でも覚えるよ。まず みんなの名前を 覚えようか。」


と田村さんは 笑顔で言う。



そして 毎朝のお茶淹れを 啓子の仕事にした。
 


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