紡ぐべき糸

『もしかして初めて? 』


聡は 戸惑っていた。


もし 初めてなら 自分は 美咲の 特別な存在に なってしまう。

でも美咲は どうせ 東京に 帰るのだから 構わないか。


体を満たした後の 醒めた打算が 聡の心を 占めた時 美咲は バスルームから出てきた。
 

「美咲、初めてだったの。」

聡が聞くと 美咲は 小さく頷いた。

そして、
 

「でも 気にしないで。横山君 責任とか 感じること ないからね。」

美咲は 聡の気持ちを 察していた。


先回りして 聡の負担を 取り除く美咲。

聡は 驚いて 美咲を見る。
 

「東京に 彼氏 いるのかと思ったから。」

もう一度 言い訳を 重ねる聡に、
 

「横山君が そう思っていること 私 知っていて 付いて来たから。だからいいの。気にしないでね。」

美咲は 笑顔で 聡を見つめた。
 

初めての美咲を 抱いてしまったことを 少し後悔していた聡。

美咲の 潔い言葉に 全てを 許されていくような思いが 聡を包む。


聡は 急に 未練を感じて、
 

「美咲 いつ 東京へ帰るの?」

と聞く。
 

「明後日。いい成人式だったね。」

と美咲は 明るく答える。
 

「じゃあ 明日。明日 もう一度、 会いたい。俺、もっと 美咲と一緒にいたい。」

聡は 自分でも 意外なほど 駆け引きのない 本音を 言ってしまう。
 

「うーん。それもいいか。」

美咲は 余裕の笑顔を 聡に向けて 静かに頷いた。
 
 


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