紡ぐべき糸

『美咲。』

美咲に会えると思うと 聡の体は 熱く騒ぐ。

聡は そっと名前を呼ぶ。
 

『なあに。』

と答える美咲に
 
『愛している。』

と聡は 言ってしまう。でも美咲は、
 
『ありがとう』

と答えた。


『私も』

と言わない美咲に 聡は、
 
『美咲は?』

と聞き返す。

美咲は 一呼吸置いてから、
 
『私も。愛している。』

と言ってくれた。

その後で、クスッと笑い
 
『もう。すごく恥ずかしい。』

と美咲は付足した。
 

『美咲、可愛い。いっぱい 抱いてあげるからね。』

と言う聡を 美咲は 笑いながら、
 
『それは 私のセリフでしょう。』

と言った。
 

この時 聡は まだ 美咲の決意を 知らなかった。


すぐ訪れる 甘い時間を 待ち侘びるだけで。


弾む心は 美咲の声の 切なさに 気付かなかった。
 


< 76 / 227 >

この作品をシェア

pagetop