紡ぐべき糸

23


バレンタインデーに 啓子から 言われた言葉は 聡の心に 引っ掛かり続けた。


聡が 美咲に 夢中になっている姿を 啓子は 近くで ずっと見ていた。



八年以上、ずっと。



美咲に会えずに 思いだけを 持て余していた日々も。


美咲と 再会してからの 輝く 幸せな日々も。


無責任に美咲を 翻弄している 自分に怯える日々も。
 


啓子は 何も言わず どんな思いで 聡を見つめていたのだろう。

聡から離れて 新しい恋を捜そうと 思わなかったのだろうか。


そう考えたとき 聡はハッとした。


自分と同じだから。


啓子が言っていたように。
 


聡の周りには たくさん 女の子がいた。


気持ちを 切り替えれば 別の生き方があった。

でも聡は 美咲に執着した。

美咲じゃないと 駄目だった。


紡ぎ合えない糸だと わかっていても。
 



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