紡ぐべき糸

聡は 両手で頭を抱えて ハンドルに 顔を伏せた。
 

その時 啓子は いきなり 聡の頭を 抱き寄せた。


聡が 驚いて顔を上げると 啓子は 聡の首を引き寄せ そのまま 自分の胸に抱いた。


聡は 静かに 啓子の胸に抱かれる。



啓子のぬくもりは 聡を 切なく 泣きそうな気持にさせた。
 


「ありがとう。」


しばらく 啓子に 寄り添っていた聡。


そっと 啓子から離れて言う。
 


「私。ごめんなさい。」


啓子は ハッとして聡を見る。


聡は優しく首を振り、
 

「ううん。林さん、優しいね。」

聡は 恥ずかしそうに微笑む。
 

「私 何か 横山さんが 自分と重なっちゃって。横山さんの彼女は 私にとっての 横山さんだから。」


ぽつぽつと言う 啓子の言葉に 聡は 初めて 心から啓子を見た。
 




< 90 / 227 >

この作品をシェア

pagetop